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おじいちゃんの最期のガッツポーズ

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数年前に終末期の在宅医療に取り組む医師の講演を拝聴した。

その中で肝臓がんで亡くなられたおじいちゃんの話が、未だに強く印象に残っている。

船戸先生がそのおじいちゃんのお宅に初めて訪問されたのは、おじいさんが亡くなる一週間余り前だった。

ご家族の依頼で往診に向かわれたのだが、その時の話では主治医から余命は、あと数日だと告げられていたという。

船戸先生は、往診前におじいちゃのお宅へ電話をされた。

電話に出たのは当のおじいちゃん本人で、とても元気そうな声に思えた。

おじいちゃんの家に到着し、玄関の呼び鈴を鳴らすと、出迎えてくれたのも当のおじいちゃんだった。

あと数日で亡くなると言われているおじいちゃんが、電話に出たり、あ出迎えをしたり・・・。

船戸先生は一瞬、何かの間違いかと思ったという。

しかし、診察してみると顔は真っ黄色に見え、肝臓は腫れあがり、お腹は腹水が溜りカエルのように膨らんでいた。

主治医の診立ては間違いないように思われた。

初めての往診を終え帰ろうとしたときに、おじいちゃんの奥さんから悩みを打ち明けられた。

おじいちゃんが自分が死んだ後のことを細かく指示してくるので困っているのだと言う。

「香典返しはこれぐらいにしておけ」
「焼香の順番はこうだ」

などなど、奥さんはどんな顔をして、その話を聞けばいいのか困っていると、船戸先生に相談したのだった。

船戸先生は、「遺言のつもりで聞いてあげてください」とだけ伝えた。

それから一週間ほど経った日の昼過ぎに、おじいちゃんの意識が無くなったと知らせが入った。

船戸先生がおじいちゃんの家に着いて、家族から話を聞くと、その日の朝までしっかりとご飯を食べて、トイレにも自分の足で歩いて行かれていたが、昼頃に突然意識がなくなったそうだ。

船戸先生が診察してみると、全身状態はもう限界だと判断され、ご家族に今夜が山であることを告げられた。

そして、次に自分を呼ぶときは、呼吸が止まってからでいいとも告げられた。

それから日付が変わって深夜2時ころ、おじいちゃんが亡くなられたとの連絡が入った。

船戸先生は最期の診察に向かわれた。

おじいちゃんの家に到着し、家の中に入った時、船戸先生はこれまで一度も感じたことのない、とても異様な雰囲気がその家の中に充満していることを感じられた。

亡くなったおじいちゃんを取り囲んでいる家族をはじめ沢山の親類縁者たちが、みんな泣きながら笑っていたのだった。

みんな涙を流しながら笑っている。

人が亡くなった時、本来、暗く、冷たく、重いはずの空気が、おじいちゃんの家では異様なまでに軽かった。

船戸先生はとても驚き、とても不思議に思い、おじいちゃんの息子さんに、「何かあったのですか?」と、聞かれた。

すると息子さんは、その質問を待っていたかのように、ちょっぴり誇らしげにこう答えられたそうだ。

深夜0時を過ぎたころ、それまで全く意識のなかったおじいちゃんが、突然意識を取り戻し、しかも自ら体を布団の上に起こして、集まっている親族の一人一人それぞれに向かって、お礼を言ったのみならず、一人一人それぞれの至らない点も指摘したという。

そして、最後に息子にはめていた指輪を手渡して、「ありがとう!」と、言って身を横たえ、そして!!そして!!ガッツポーズをしながら息を引き取ったという。

いくら年老いたとはいえ、自分の大切な家族が亡くなれば、やはりとても悲しく辛いことだと思う。

しかし、このおじいちゃんのように、最期の最後まで自分のやりたいことをやり尽くして、しかも、ガッツポーズまでして死んでいったのなら、悲しみ辛さ以上に、賞賛してあげたい気分になってしまうのではないだろうか?

この日まで船戸先生にとって、理想的な死に方とは、枯れ木が朽ち果てて静かに倒れて行く、そんなイメージだったそうだ。

しかし、ガッツポーズをしながら死んでいく、この死に方が自分の理想になったそうだ。

「よし!俺もガッツポーズをしながら死んでやる!!」と。

何かでっかいことにチャレンジして、数々の困難をくぐりぬけ、それを成し遂げることもとっても素晴らしい人生だと思う。

でも、このおじいちゃんのように、目の前のことを全て自分の思うままにやり終えて、最後の1秒ですら自分の意志で生き抜く人生、ガッツポーズを残して去りゆく人生は、めちゃくちゃカッコイイ!!

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